1998年作成 2002/01/15投稿 このページの最終更新日: 11/28/2011 20:03:45

大阪は十三にある第七芸術劇場で
「ミツバチのささやき」「エル・スール」を観てきました。
これまでわたしは「ミツバチのささやき」しか観ていなかったのですが、
今回、はじめて「エル・スール」と合わせて観てみて、
ビクトル・エリセの作品は
スペイン内戦についてある程度知っていないと
きちんと理解できないと実感しました。

以下、家に帰って、スペイン内戦について調べてはじめて、
エリセの作品について理解できたことを書きます。

1.「エル・スール」の意味する「南」とは、
 「ミツバチのささやき」の舞台となる村のこと。

 ---ご存じの通り、
 スペインは19世紀終わりから1975年までの約百年弱の間、
 内戦・ファシズムに苦しみ続けてきた歴史を持つ。

 「ミツバチのささやき」は
 ファシズムを支えてきたフランコが死ぬ2年前(1973年)に作られている。
 だから「ミツバチのささやき」で描かれている村は、
 ファシズム政権を受け入れている村の日常を描いていることになる。

 一方「エル・スール」は、
 ファシズム政権以後の1983年に作られ、
 逆にフランコによって「北」に追われた貴族の立場を
 父と娘の関係の機微を通して直接的に描いている。

 その「エル・スール」とは、the south、つまり「南」のこと。
 にもかかわらず、「エル・スール」はあくまで「北」のことしか描かない。

 「エル・スール」では、
 主人公のエストレリャの父が、郷里で愛した女性に手紙を書く。
 だが、彼はその女性から「もう手紙しないで」という返事をもらう。

 一方、「ミツバチのささやき」では、
 主人公アナの母親が、遠くにいった過去の恋人から
 手紙をもらい、その返事を書いて投函する。
 映画の最後で、彼女はもらった手紙を火にくべる。

 ---こうした符号からみれば、
 「ミツバチのささやき」に描かれている村こそが、
 「エル・スール」が最後まで描かなかった「南」そのものといえる。
 両作品は、間違いなく表裏一体の関係にあり、
 どちらか一方を観ただけでは、
 エリセが描こうとしたことを理解できない。

2.「エル・スール」の父子の言い争いは内戦に関わる政治的対立を指す。

 ---「エル・スール」の中で、父の乳母がエストレリャに
 「昔はお父さんが正しかった時代があったが、
  フランコが出てきて、逆におじいさんが正しくなった」
 と語って聞かせるシーンがある。

 1923年に、バルセロナ総督が軍事クーデターを起こし軍事政権を樹立。
 そのクーデターの首謀者のプリモは、自分を首班として、
 1925年、軍事政権を文民政権に転換させる。
 が、プリモの独裁的な政策が、
 知識人・貴族・実業家・将校の離反を招く。
 その知識人・貴族・実業家・将校に支えられ、
 1931年、自由主義者・社会主義者による「第2共和制」が発足する。

 この「第2共和制」が「お父さんが正しかった時代」のこと。
 そして後に成立するフランコ政権の時代が
 「おじいさんが正しくなった時代」のこと。

 つまり、「おじいちゃん」はファシズムを支持していて、
 「お父さん」は社会主義政権を支持していることになる。
 だから父子の言い争いは、単にウマが合わなかったということではなく、
 こうした政治的対立から始終言い争っていたということ。

3.「エル・スール」でお父さんが教会を嫌うのは内戦と関係している。

 ---「エル・スール」の中で、主人公のエストレリャが
 はじめての聖体拝受をうけるシーンが出てくる。
 このとき、「南」に住む「おばあさん」と父の「乳母」が
 わざわざ「北」に出向いてくる。
 なのに「お父さん」は彼女たちが来た日に
 裏山でライフルを撃ちまくる。

 「第2共和制」は進歩的憲法を成立させ、国家統一化政策を実施。
 その一方で、
 急進的反教会政策(婚姻の脱宗教化・教会財産の国有化などの反教会政策)
 を成立させ、この政策が保守的なカトリック信者からの猛反発を招く。
 フランコ将軍はこの保守的教会信者の反発を利用して
 スペインにファシズム政権を樹立した。
 このファシズム政権の成立により、
 共和制を支えていた自由主義者・社会主義者は「北」に追われる身となる。

 エストレリャのお父さんは、
 その追われる身となった進歩主義者の一人。
 だから教会行事には関わろうとしない。
 だからエストレリャのはじめての聖体拝受の前日に
 ライフルを撃ちまくり、心を苦しませた。
 そして、教会へは行くが、人目に付かないように
 柱の陰でエストレリャを見守っていた。

4.エストレリャのお父さんが自殺するのは1957年という日付と関係している。

 ---「エル・スール」は1957年という時間設定がされて始まる。
 この日付には映画では一切説明はされない。
 しかしこの日付は、フランコ政権下での社会不安の拡大の原点と見られる。

 1953年、フランコ政権は
 経済・軍事援助とひきかえにアメリカと基地協定を結ぶ。
 また、検閲と政治的不自由に対する学生暴動が起こってくる。
 1962年以降には社会不安も加わり、好況下でもストが頻発するようになる。

 1957年という日付は、スペインに社会不安が広がりはじめた頃を指している。
 そして、社会不安が拡大する中、エストレリャの父は自殺する。

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この記事はcinemasaloon.comに掲載していた記事の転載です。