シビル・ウォー アメリカ最後の日
Amazon Prime Videoで『シビル・ウォー アメリカ最後の日』視聴。現実のアメリカでの政治的対立を題材にした映画かと期待していたが、意外にも政治無しのアメリカ分裂話だった。
まあそれは良い。戦場ものらしく爆発や銃撃戦もリアルに描く”金”も掛けてるし、ワシントンDCまで旅するロードムービーで途中の路上の印象的なシーンや戦火の火の粉が舞う幻想的な林のシーンなど、たくさん良い画が撮れていた。キルストン・ダンストはじめ、役者勢の名演も光ってた。視覚効果に至ってはどうやって撮ったんだか皆目想像できないシーンも目白押しで最高に良かった。
が、ジャーナリストがホワイトハウスに潜入という脚本はあまり説得力もなく、編集は酷すぎてテンポが悪く映画が台無しになってる。もっとキビキビ切ったり繋ぎ方を変えればもう少し楽に没入できる映画になったのではないか。大いに悔やまれる処。
どことなくテレビ局制作の映画のテイストがしてくるが、これもA24制作映画の特徴のひとつと納得しておくしかないだろう。
241215追記
Wikipedia シビル・ウォー アメリカ最後の日 には、
憲法で禁じられているはずの3期目に突入し、FBIを解散させるなどの暴挙に及んだ大統領に反発し、19の州が分離独立を表明、内戦が勃発した近未来のアメリカ合衆国。テキサス・カリフォルニアが連合する「西部勢力(WF〈Western Forces〉)」と、フロリダ~オクラホマにかけて広がる「フロリダ同盟」は2つ星の星条旗を掲げ政府軍を次々と撃退してワシントンD.C.に迫り、首都陥落は時間の問題となっていた
とあり、注釈2に
他にもオレゴンを中心に北部を共産主義で統治する「新人民軍」の存在が示唆されている。
とある。他にも、公式サイトのCOLUMN「混沌とするアメリカの、トリガーを引く速度」で*アメリカの現状を象徴しているシーン*とされる場面の注釈として、このWikipediaには
おそらくフロリダ同盟の兵士。アロハシャツを着用しているが、これはブーガルー運動の文脈に準じている。
と注釈がされている。
ということで、「政治無しのアメリカ分裂話」ではなく、もしPresident-Elect ドナルド・トランプ氏が、中国共産党の習近平氏のように、禁じられた三期目を憲法改正で手に入れ独裁をはじめたら?というSci-FiともRealismともつかない前提で、なおかつ共和党牙城のフロリダ州テキサス州と民主党牙城のカリフォルニア州とが同盟を組んでそのトランプ氏を追い詰めるというストーリーになっているというのが正しい理解のようだ。もちろん周辺事情として新人民軍という共産主義勢力と、ブーガルーらしき極右勢力の存在も描かれていて、「政治無し」どころか「アメリカの政治情勢の近似値」としてこの映画が作られたのだと言えそうだ。
なので見方によっては近未来SFというジャンル分けが可能かも知れない。この辺りはさすが『エクス・マキナ』の監督というべきなのかも知れない。
ただし、もしそうだとすると、その「アメリカの政治情勢の近似値」には大きく抜け落ちているものがあるといわなければならないだろう。それはアメリカ分断のもう片方側、即ち、BLM(Black Lives Matter)やAntifa、批判的人種理論(Critical Race Theory)ゃキャンセル・カルチャー(Cancel Culture)、LGBTQ+といった左派の政治思想を契機とするアメリカ社会の分断の動きだ。
「アメリカの政治情勢の近似値」から左派要因を捨象し、かつ、アメリカ社会で圧倒的強さを持っているメディアのジャーナリストを主人公として大統領選挙イヤーである2024年冒頭にこの映画を公開する――この動きそのものが再帰的に「アメリカの政治情勢の近似値」に含まれていると言っても過言ではなかろう。いわばこの『シビル・ウォー アメリカ最後の日』という映画自体、アメリカ社会が直面している政治的分断そのものの現れだと診る視点が必要だろう。
■『シビル・ウォー アメリカ最後の日』109分
監督・脚本 アレックス・ガーランド
■COLUMN|映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/column/
■シビル・ウォー アメリカ最後の日 – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC_%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E6%9C%80%E5%BE%8C%E3%81%AE%E6%97%A5