セント・オブ・ウーマン/夢の香り

アル・パチーノの名演、怪演、名演説にグイグイ引き込まれて最後まで観てしまった。アカデミー主演男優賞は納得。
アル・パチーノだけではなく、様々な登場人物の、表情というか、素顔なのか演技なのか判然としない演出、またはカメラの眼差しの凄さが全編に溢れている。
まあこのあたりはwikipedia他、webの諸解説にあたってもらえば良いとして、ここでは別の観点からの1st impression。
この映画は1992年制作のアメリカン・ニューシネマであり、ピーター・ウィアーの「いまを生きる Dead Poets Society (1989)」を手本とした習作であり、マーティン・ブレスト監督の実力を見せつけた作品だろう。監督の「ジーリ」でのラジー賞5部門は受賞はご愛敬w 私としては監督の人物描写力に脱帽。特に姪のカレン(サリー・マーフィ)やタンゴを踊らされるドナ(ガブリエル・アンウォー)、政治学者のクリスティーン・ダウンズ(フランセス・コンロイ)など、必ずしも若くない女性の人物描写は、ロリコン含みのリュック・ベッソンや若い女性を撮らせたら並ぶものがないウォシャウスキー姉弟を凌駕している。ビバリーヒルズ・コップはなんだったのかと言いたくなる。
一つ気にかかるのは、ジョージ・ウィリス・Jrを演じたフィリップ・シーモア・ホフマン。アル・パチーノをバイトで面倒見たチャーリー・シムスに「校長の横暴から仲間を守れ」と吹き込みまくった末に、有力者の父に絆され自分は口を割る役どころの彼が、ボリス・ジョンソン--ブレグジット強硬派なのに、イギリス国民投票で実際にEU離脱が選択された際に首相就任を断り、代わりにまとめ役に立って汗かいてきたメイ首相キャビネットで外相として勤めながら、再び英国で離脱強行世論が勢いを増したとたんに外相辞任してメイ氏に反旗を翻した--の容貌にそっくりなこと。小汚い役回りは人をああいう容貌にさせるのかと思うとこの映画のリアリティを感じざるを得なかった。
ちなみに、そのフィリップ・シーモア・ホフマンが、2005年の「カポーティ」でアカデミー主演男優賞受賞というから、彼は役作りでボリス・ジョンソン化していたことになり、これはこれで驚愕する事実だと言えそう。なかなか見所の多い映画であった。
だけどセント・オブ・ウーマンを「夢の香り」はないだろう。どう見ても「芳しき女の匂い」以外のなにものでもないよ(笑)   2018.7.26 ★★★★

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