海底二万マイル

 小学生の時以来、実に40数年ぶりに鑑賞。19世紀を偽装した脚本に20世紀のお粗末な時代観を持込み醜悪なシナリオ。カーク・ダグラスのセーラーミュージカルは50年代娯楽のメインストリーム、悪いが吐きそうだった。それら二点を我慢すれば驚愕の水中撮影とメカニカルな舞台セットがお出迎え。

 CGIが無かった時代の海中ロケは命の危険に溢れていたはず。少なくない水中撮影は陸上の何十倍も苦労しただろう。クリティカルな一瞬を除けば本物の鮫で本当の海中で撮ってる。沈没船内部シーンなどはセットなのか本物なのか判別できない現実感。そして恐らく本物の潜水艇。

 潜水艇から硝子越に見える海底の眺望、潜水服を着ての芝居、硝子窓で膨らんで見える顔、潜水艇になだれ込む海水、ハッチを閉めながら逃げ惑うクルー等々。キャメロンのアビスでの映像表現は明らかにこの映画のまっすぐな延長線上にある。

 アビスのメイキング『アンダー・プレッシャー』の中で、出演者らに「続編を作ると言われたら出るか?」と聞くシーンがあるが、全員否定。ワンナイト役の女優、キンバリー・スコットに至っては顔をしかめ、目の前の綱を絶ち切るように両手を開き、「ネバー!!」と強く拒絶した。そのアビスですら原発建設予定地跡に近くの湖から引水してのフルセット撮影に過ぎなかった。本当の海で撮ったこの映画の想像不能の超絶苦労が窺い知れる。

 これが1954年制作というから驚く他ない。いや、1954年だからこそ作ることができたのかも知れない。アビスの時も思ったが、CGIでなんでも「作られる」今、逆に作ることが難しくなった一本だとは言えるだろう。それとジュール・ベルヌの原作もこの映画の映像表現も、今でも殆ど色褪せてない。現代SFといって良い。ディック作品がそうであるように、凄いSF小説・作品は長い時間の果てにその真価が現れてくるのだろう。

2017.2.26 ★★★★

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