パッセンジャー

2020/07/09 追記 2020/07/12 再追記

恒星間航行ネタ。ロバート・A・ハインラインの『宇宙の孤児』ほど重厚感はないが、このジャンルはタイムトラベルものに次ぐドラマの宝庫になる可能性があると、この映画は感じさせる。

オリジナリティは少ないがテイストがとても良い。出てくる宇宙船は『2001年宇宙の旅』のディスカバリーの超巨大バージョン。船内のカーブや、宇宙服を装着しての船外活動の様子、吹き飛ばされた人間を救出するシーンなど、『2001年宇宙の旅』へのオマージュを感じさせるシーンが多い。それだけでなく、『2001年宇宙の旅』のコンテキストの延長線上でこの宇宙ドラマを演出して行っている印象があった。

映画は投資-回収活動の一環でもあるので、どうしても過去の成功作品の援用から自由になりきれない部分があり、そのために映画と映画との間に緩やかな繋がりのようなものが出来てくる。そういう意味でこの映画は『2001年宇宙の旅』の流れを汲んでいると言える。私の第一印象では、ロバート・ゼメキスの『コンタクト』、クリストファー・ノーランの『インターステラ』等と同じカテゴリーのSF映画と感じられる。

BSフジ[二]<BSフジ4Kシアター>録画の鑑賞。途中、酷いカットがあったのでなんらかの形で完全版を鑑賞したい。

2020/07/09 追記
セルBDが届いたのでさっそく見直してみた。
すると、驚いたことに目覚めたのは2人だけではなく、モーフィアス、即ちローレンス・フィッシュバーン氏演じるガス船長もだった。フジの4Kシアターでは、モーフィアスは居ないことになっていたのだ(笑)

 さらに驚いたのは、セルBDよりもフジの4Kシアターの画質の方が圧倒的によかったことだ。正直この映画は、4Kで観てこそ良さが解る映画のようだ。それほど精細に宇宙が描写されていて、心の琴線に触れていると思われる。

 もっと驚いたことがある。それは、フィッシュバーン氏が演じるガス船長が、出てこない方が映画の質が良いことだ(笑) フィッシュバーン氏には申し訳ないけど、ガス船長は「招かれざる客」だった。彼が出てこない方が、つまり、ジム・プレストンとオーロラ・レーンの二人きりの極限孤独のままの方が、映画として、格段に高級感を醸し出せていたということだ。

もちろん、ガス船長が出てこないとシナリオの辻褄が合わなくなるし、ふたりがわだかまりを乗り越えて窮地のアヴァロン号を命がけで救うきっかけを逸していただろう。ただ、それはこの恒星間航行ドラマのエッセンスとは大して関係なく、むしろ90年も二人きりの憎しみと愛情のジレンマには、正直、どうでもいい横道、というか結果的にはノイズに過ぎなかったのだ。

かくして、モーフィアスが居なかったことになっているフジ4Kシアター版の方が、画質的にも、映画のテイスト的にも、セルBDよりかなり上だったことが判明した。いや、もちろん、全編を観て、この作品が素晴らしいテイストに溢れていることを否定する話では決して無い。SFというジャンルに於いて恒星間航行というテーマが、タイムトラベルもののように、様々なドラマの宝庫になり得ることを示したことはこの映画の功績のひとつだろう。

最後に付け加えておくと、(1)超高級な豪華客船を人生の伴侶と一生独占出来るゴージャスな空気感が満ちている(2)最近のハリウッド製映画にしては、日本語はちょくちょく出てくるけれども中国語が一切出てこない、中国がまったく感じられない映画である、という点でもこの映画のテイストは良くは感じられるのだろうと思った。

2020/07/12 再追記 再度、BSフジ[二]<BSフジ4Kシアター>で鑑賞

前述の通り、モーフィアスことローレンス・フィッシュバーン氏演じるガス船長はやはり出ないことになっている。。。いや正確には、起きなかったことになっていることを確認。途中、エンジニアのジム・プレストンは下級パッセンジャーで最低レベルのコーヒーや食事しか配給されず、高級パッセンジャーのオーロラ・レーンに奢ってもらっていたことも明らかに意図的に切られていることが解った。

つまり、本当にこの放送で、別編集版の『パッセンジャー』を成立させんと目論むスタッフがいて、それを実行したことを私は確信した。何者かにより、ガス船長のシーンが切られ、起きてこなかったことにしことにより、私がジム・プレストンとオーロラ・レーンの極限孤独の作品として感じたのは、決して偶然ではなかったようだ。個人的には素晴らしい編集で、映画の目指すところをより鮮明に括りだしていただいたバージョンとして支持したい。

さて、とはいえ残念なシーンとシークエンスをひとつづつ指摘。

残念なシーンは、ガス船長の宇宙葬シーンだ。起きてこなかったことにするならことさらに宇宙葬のシーンは要らなかったはずだ。

また、残念なシークエンスは、公共空間に若木の苗木を植えたシーンが削られていたことだ。このシーンはこの物語の、謂わば暗黙の骨格となるシーンだ。ガス船長との絡みのみを削れば良かったのであり、ここを削ることによってラストシーンの意味がわからなくなってこの作品の重要なテーマを削ってしまっている。このシーンは残して欲しかった。

でも放送用の編集としてはこれまで観たことがない素晴らしい編集であると断言したい。たかが放送用の編集なのに、素直に素晴らしい、と言えるのは斬新で、嬉しい誤算であった。

 

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

1st impression

前の記事

ライフ