カメラを止めるな!

やっと観られた。
舞台裏ものとしては『ラヂオの時間』以来の傑作、というか『ラヂオの時間』を手本にした映画制作現場ホラーコメディとでも言えば良いのか。ともあれ私自身の自主映画時代を思い出しつつとても楽しく観ることができた。「低予算」が話題になり、ラッキーな作品みたいに言われることがあるがそうではない。むしろ面白い映画はこう作るんだという見本であるような作品だ。

『桐島、部活辞めるんだって』とも比較したくなる。創作活動の舞台裏をネタにするのは私は禁じ手だと思っているが、『桐島~』も『カメラを止めるな!』も舞台裏を真正面からは捉えず、少しずらして描くことで、創作現場の楽しい部分をうまく「味」に変えている。その意味ではこの『カメラを止めるな!』を観て映画を作りたくなった方が、『桐島~』以上に、少なからずいらっしゃったのではないかと想像している。最後まで観た時に来る感動は映画作りの醍醐味そのものだ。観るより作る方が映画は数万倍楽しいのだ。もちろん数万倍苦しいが(笑)

さて、初見の段階で褒めるところに暇がないが、一番に褒めるべきはやはり「脚本」が精密に練れているところだろう。推敲に推敲を重ね、辻褄を合わせ、爆笑に変える。実はほとんどの伏線は初見で読めたのだが、それにしてもまるでプログラミングのように凄まじく精密に伏線が貼られ、辻褄が合わされ、創作の大変さ・楽しさ・嬉しさが括り出されてくる。

それと関連する処では、勝手な想像だが、現場の雰囲気も非常に良かったのだろうと診る。『ロケッティア』が当にそうだったのだが、現場の雰囲気が映像に出たタイプの仕上がりだろう。血まみれなのだが非常にすがすがしい作品に仕上がっている。精密且つ和気藹々な、硬軟入り交じった映像が楽しめる。

次に特筆したいのは、舞台となる配水場のロケーションが抜群に良い。建物内部に始まり、そこを砦として中二階、建物外、階段、屋上、そして周囲の掘っ立て小屋を十二分に駆使して「ゾンビに襲われるゾンビ映画スタッフの闘い」がダイナミックに繰り広げられる。ロケ場所としては決して広い訳でもなく妙味がある訳でもないんだけれど、あの空間を存分に使い尽くす演出が見事だった。脚本作成と並行してロケーションが行われたのだろう。とても優れた部分だと評価したい。

あと一つだけ初見の段階でぜひ褒めておきたいのは、舞台裏作品を作るに当たって、表の作品も完成させて見せてくれているところ。恐らく手本にしたであろう『ラヂオの時間』では、表である番組は全体が見えない。だけど「カメ止め」は表を完成させてみせてくれる。これにより、もともと上映時間が短い作品なのに本編がさらに半分強の時間しか使えず、描き切ることが出来ずに終わる中途半端な作品になる。。かと思いきや、緻密な伏線張りによりむしろ作品の濃厚度が増し、しかも最後まで見た後にはもう一度最初から見直してみたい衝動に駆られる。つまり、表も裏も精密に描くことにより、リピーターを増やす戦略になっているのだ。興行的に成功した最大のポイントはここではないかと感じた。実に良く出来た映画であった。  ★★★★☆

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。